花物語
泣き虫のニシキギさん

いまお山は紅葉の季節ね
なかでも一番きれいなのはニシキギさん
今日はそのニシキギさんのお話よ
ニシキギさんはどうして真っ赤になるのか
こんなお話があるのよ

秋にお山さんが紅くなるのはこの前お話したでしょ
自然の神様が少しでもお山が美しくなるように
一生けんめい考えて秋は紅くなるようにしたの
それは美しいものを見ると人はしあわせになるからよ
人がしあわせになれば自然もしあわせになる

ニシキギさんも美しくなろうと紅くなったの
でもいまほどは紅くなかったのよ
ニシキギさんはとっても気持ちが優しかったの
ちょっとしたうれしいことでも
ちょっとしたかなしいことでもすぐに涙が出たのよ

みんなは「泣き虫泣き虫」といってからかっても
ニシキギさんは泣きたいときに泣くのは当たり前
泣き虫ははずかしいことじゃないって思っていたの
泣き虫はけっして弱虫じゃないの
ニシキギさんは意志の強い人だったの

夏に元気だった虫さんが
秋になってニシキギさんの足元で
動けなくなることもあるの
飛べなくなった虫さんが
ニシキギさんの腕に落ちてくることもあるの

そんなときニシキギさんはどうすることもできなくて
悲しくなって涙が出るの
その虫さんたちのために
いっぱい泣いてあげるの
だってほかに悲しんでくれる人がないから

ニシキギさんが泣くのは悲しいときだけじゃなかったの
ニシキギさんは夜が好きだったの
星さんやお月さんを見て涙を流すこともあったの
もちろん昼間の青空も好きだったのよ
白い雲さんや故郷に帰る鳥さんたちを見ても涙が出たの

そうニシキギさんは悲しいときうれしいとき
ほかの人の倍も3倍も泣いたの
虫さんや鳥さんや星さんや月さんのために泣いたの
泣きすぎて人の目が紅くなるように
ニシキギさんも紅く紅くなったのよ

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