樹海の瞳【短編ホラー】
第五章 囁き
 二階は雑多な、黛の執筆室だった。
 黛はベッドに横たわり、仮眠をとっていたようだが、ドアが開く音で目を覚ました。

「アンタ、寝てたのかい」
 西郷は驚いて話し掛けた。

「アイデアが浮かばない時、仮眠をとるんですよ」
 どちらかと言えば、黛の方が驚いた風であった。

「さっき若い女の声がしたんだが」

「若い女?」

「ええ、私も聞こえました」
 木暮が口を挟む。

「ああ、志津さんの事ですかね」

「志津?」

「よく訪ねて来るのです」

「こんなところで?」

「樹海に住んでいるんですよ」

「アンタ以外の樹海の住人って訳かい?さっきこの部屋から声が聞こえたようだが」

「おかしいですね。私は眠っていましたので」

 それ以上、話は進まなかった。西郷は木暮の方を見たが、木暮は何も言わなかった。
 訝しげな二人を含め、三人は無言で下の階に下りてきた。

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