30秒の至福
ホームルームが終わると同時に、わたしは飛ぶように家へ帰る。
部活よりもバイトよりも大切なこと。


「由香、宿題は自分の部屋でしたら?」


「リビングのテーブルのが、はかどるんだよね」


そう言っておいて、わたしはカーテンの隙間から外を見つめる。

窓ガラスの向こう側。
マンション入り口のガラス扉の中。
ちょうど集合ポストが視界に入る特等席。
 
南京錠のダイヤルを揃えるのに手こずる、意外と不器用なあなた。
蛍光灯一本だけの明かりが、ぼやけた影を作る。
あなたの指先で繊細そうに取り出された郵便物。わたしは、嫉妬すら覚える。


瞳には一人でいる時特有の油断しきった色が浮かび、わたしはそれを独り占めしているという快感に捉われる。
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