30秒の至福
「あ、電車きたから。頼むよ、ノート。俺もうドイツ語の単位落とせないし」


大学生のあなたは火曜日だけ、わたしと同じ電車に乗る。

あんまり近くに寄ると、わたしの心臓はたぶん壊れてしまうので、あなたの横顔が見えるほどよい距離を確保する。

ひやりと拒絶する手すりにつかまりながら、わたしは、敬虔なる信者のように祈っている。電話の相手が男性であったことを。

それから、この世の宗教とは一切関係のないわたしだけの神様に、多大なる感謝を捧げる。


今日は、声を聞くことができました。
協奏曲を根底で支える、チェロのような低い響きでした。
緑一色の大草原で、地平線に向かって叫び出したい気分です!
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