春、恋。夢桜。

【四】

戸崎が部屋を離れて少しした頃

玄関のドアが動く音がした。


「響兄。これ、キッチンにあったやつ。ドアの所に立て掛けておくからね……」


とんとん、とリズミカルに階段を登ってきた梨恋が、そう言った後に自分の部屋に入っていく。


俺は、多少の重みを感じる体を、ゆっくりと起こした。


ドアを開けると、丁度足元の位置にトートバッグとスケッチブックが置いてあった。


それを手に取って、静かにドアを閉める。



さっきまで戸崎が座っていた椅子に座る。


持っていたトートバッグを机に乗せて、俺はスケッチブックを足の上に置いた。
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