春、恋。夢桜。
「当り前だろうが」


俺は、視線を麗華から絵に移した。


「風景画の上手い新入生がいるって噂を聞いて来たんだ……。来て正解だって、この絵を見た瞬間に思ったよ。

この光景を知ってるのは、麗華と俺だけだろ?」


「うん。この絵を一生懸命描いて展示してもらえたら、響に会える気がしたの。……私も、頑張ったんだよ?」


首をかしげながらそう言う麗華の頭を、俺はそっと撫でた。

照れくさそうに笑う麗華を見ると、こっちまで恥ずかしくなってくる。


「お疲れ。また会えて良かった」


俺はそっと身を屈めた。



……この高さのヒールは当たりだな――――



離れたお互いの顔を覗き込みながら

2人でゆっくりと笑い合った。







俺達は、新しいスタートを切りだした。


思い出のあの場所は、これからもどんどん形を変えていくはずだ。



それでも俺達は、あの場所で過ごした春と変わらないままに。


一緒に笑い合って

喧嘩をして

触れ合って

いろいろな思いを共有して

…………―――――


これからも精一杯

できることを1つずつ、やり遂げていけるように……




俺達の笑顔と未来を見守るみたいに

隣には、『夢桜』が静かに佇んでいた。






【完】
< 236 / 237 >

この作品をシェア

pagetop