春、恋。夢桜。

【五】

次の日、俺は学校が終わってからすぐに家へ帰った。

そして、梨恋を連れて月美丘へ向かう。


今までに1度も月美丘へ行ったことがない梨恋は
辺りをきょろきょろと見回しては感嘆の声をあげた。


梨恋と一緒に行くから、今日は自転車でも、走りでもない。

いつもよりもゆったりとしたペースで足は進む。


でもそれとは反対に、俺の鼓動は次第にスピードを増していった。


本当にカズハと梨恋がお互いを認識できるかどうか

できなかったら、こうして歩く意味もなくなる。


「響兄、そろそろ疲れてきちゃった……」

「あと少しだ。この並木道を抜ければすぐだから」

「……別に、桜なんてわざわざこんなに遠くまで見に来なくても良いんじゃない?
学校にも咲いてるから毎日見てるし」


「いや、絶対に見て後悔するようなことはないからさ。それに、まだ1キロ程度しか歩いてないし。

ほら、あとはこの階段を登るだけだ」


文句を言いながらますますゆっくりと歩き始めた梨恋を急かすみたいに

俺は、梨恋の手を引いて階段を登った。
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