春、恋。夢桜。
 

思っては、いた……――――


でも、バランスの崩れた俺の心に

もうそんな風に他人を気遣う余裕なんてなかった。


痛みにも耐えた。

絶対安静という言いつけも守った。

そして、早く良くなりたいと願った。


でも一方で、部活には退部届を出した。

教室で加藤に会っても、一言も話さなくなった。



そして、そんな状態で過ごし始めてから1年が経とうとしていた頃、父親の転勤の話と、引っ越しの話を聞いた。


その時は、2度目の手術が終わってから少し経っていて……。

手術の痕はまだはっきりと残ってたけど、足に入っていた金具は取り除かれていた。


だから、俺は迷わず澄月町へ引っ越した。


自分がどれだけ大切に思っていても、呆気なく消え去ってしまうものもある。


どうしても、仕方のないものもある。


どうしようもないものもある。


自分に言い聞かせるみたいに

応急処置のみたいに

俺はそんな言葉を心に張り付けた。


そしてそれらは、俺の中の崩れかけた柱を、知らず知らずのうちに、不器用に支えるようになった。
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