あなたと、恋がしたい

「あれ見てどう? 遠恋、見切りつけるっていうのも大事じゃない?」
「そうは思わなかったけど……」
これといって好きになれそうなタイプが周りにいなかったし、浮気願望だって生まれなかった。

ただ寂しい……声が聴きたい、顔が見たい、会いたい……そういう感情だけが湧きあがっては鎮まって、いつもの日常に戻って、慣れていく。その繰り返しだった。

「それ、絶対に体感温度ずれてるよ。大体、海外に出て行って二年でしょ? 半年に一回も会えないのに、月一もメールしかくれない彼氏ってどうよ?」

「どうよって言われたって、彼、カメラマンだし、そういうスタンスなんだもん。しょうがないよ。忙しい人なの分かってるし」
信じて待つ他にないって言ったら健気って聴こえがいいけれど。

「スタンスって違うよ。都合のいい女っていうの、それ」
容赦ない突っ込みにぐさりと突き刺さるものを感じるが、果歩の心は頑なに受け入れなかった。

「まだ二十五歳だし、三十歳までに結婚できたらいいなって思う」
「そんなこと言ってると、あっというまに三十よ?」

結衣の口ぶりに、果歩は拗ねたフリをして逃れようとするが、そうはいかなかった。

「私だったら別れてるね。遠距離恋愛中、会えたの何回?」
そう言われると辛い。会えた回数が片手で足りるところが哀しい。

「ちょっと考えたくないかも」
もっと突っ込まれそうだったから、曖昧に濁した。

「でしょ。ていうかこっちが浮気してなくても、向こうのこと心配じゃない?」

私だったら……。彼女の口癖はいつもそうだ。断定的じゃないだけマシだけど。
体感温度かぁと、果歩は苦笑しつつ、新郎新婦の幸せそうな様子に目を細めた。

感動的な締めくくりとなる謝辞も、自分にはまだピンとこない。
自分にとって結婚は、ずっと遠く、まだ縁のない話に感じていた。

果歩は広告代理店、クリエイティブ・エモーションズに勤めてから、CMプランナーとして日々企画コンペに励んでいた。入社三年目の果歩の実力はというと……少々頼りない。

あまりに企画が通らず、配属を変えた方がいいんじゃないかと周りに噂されている。それが、この浮かない気分を手伝っていた。
< 3 / 7 >

この作品をシェア

pagetop