テノヒラノネツ
母親の指示どおりに、手早く手洗いうがいをすませてリビングにいくと、ふわっとした柔らかな存在に目を奪われる。
彼女の義姉が赤ん坊を抱いていた。
古賀はなるほど、と思う。

「祐樹君はタバコ吸わないわよね?」
「はい」
「当たり前でしょ、プロ野球選手は身体が資本」

彼のかわりに千華がそう答えて、ツリーのケースの紐を解き、セットする。
備え付けのリボンとまつぼっくりを飾り始める。
古賀もそれを手伝う。

「均等に飾ればいいだろ、ほら、こっちリボンが集中してる。少し貸せ」
「じゃ、そっちのボールとってよ」

そんな様子を見て義姉が口を開く。

「千華ちゃんと古賀選手って、ほんと仲いいのね」

義姉の言葉に千華は硬直する。

「小さい頃は一緒だったからねえ。ほんと2人ともやんちゃで、迷子になるのは2度や3度じゃなかったわ」
母親が紅茶を運んできてそういう。
「迷子っていっても、千華が迷子になって祐樹君がとばっちり受けてって、いうのが実際のところでね」
「そうなんですか……」

「お母さん! そういうことは言わなくていいの!」

「千華、電飾オレンジのみのヤツとって」
「……ごめん古賀君……」

お母さんあいかわらずうるさくてと、云うと。
彼は「いや」と短く答える。

「千華、仕上げだ。トップの星とってくれ」

千華は古賀に星を渡す。
母親は赤ん坊をクリスマスツリーに近づける。

「ほーら、クリスマスツリーでしゅよー」

千華はその様子を(ばあば馬鹿フルスロトッル)だと心の中でツッコミを入れ、散らかった空のケースのを片付けて、古賀に紅茶を薦める。
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