【短編】message
「犯人を殺してやりたいって何度も思ったわ。でも、それ以上に自分を消してしまいたかった。あたしが美奈を殺したようなものだから。どうやってあの子に許してもらえばいいのかわからない」

僕は真美の手を握っていた。


「それは違うよ。君は悪くない。それに・・・君は優しい子だ」


虚ろな真美の目に力がこもる。


「あなたに何がわかるの?マスコミに追われて、近所で噂されて・・・。犯人は病院送り。美奈は帰ってこない!あれは事故みたいなものだから仕方ない、お前のせいじゃないって言われるたびに、自分を責めておかしくなりそうだった」


彼女にかけてやれる言葉が見つからなかった。
妹を奪われた彼女の気持ちなど、僕には計り知れない。


「あたしがいつもみたいにあの子を探してたら、美奈は今もあたしの横で笑っていたのよ!」


真美は僕の手を振りほどいて席を立った。


「美奈はあたしを恨んでいるに決まってる!」


違う・・・。少なくとも美奈は真美を恨んではいない。
美奈からはそんな恐ろしいものを感じなかった。

ただのあどけない小学生と話しているだけで。


「信じないかもしれないけど。美奈ちゃんは、君に見せたいものがあるって言ってるんだ」

彼女は美しい顔を歪ませて僕に乞う。


「ごめんね、今日はもうこれくらいにして。少し気分が悪い」


彼女は自分を責めていた。

自分を責めることで立ち直ろうともがいているのだ。


どこか僕に似ている気がした。


あの入学試験の日、彼女が貸してくれた消しゴムを実は僕はまだ持っている。

片側は削れて丸くなっているけれど、反対側はボコボコにいびつな形をしたままの消しゴム。


試験中にそのことに気づいた僕は、試験官の目を盗んで彼女のほうをみた。

僕と同じように片側だけぼこぼこした消しゴムを使っていた。

引きちぎって僕に渡してくれたのだろう。

彼女はそういう子だ。



僕にできることがようやくわかった気がした。
< 32 / 44 >

この作品をシェア

pagetop