誘惑Baby
その後は、いつもどうりに時間は過ぎ帰る時間になった。
田崎にもノートを、仕方なく貸した。
すんげえ、ヤだったけど。
鞄を取り、いつものベンチに向かった。
すると、ベンチに座る優子の姿が見えた。
「優子」
「あっ陽平!」
ベンチから立って、いつものように笑う優子。
「行くか」
そう言って歩き出そうとしたとき、足元の異変に気づいた。
「優子……?なん、で…スリッパ…?」
「あっ、あー、…こ、壊れちゃって…さ!!」
壊れた……?
「なんで?」
「えっ??」
あからさまに困った顔をする。
眉を少し下げて、唇を噛む。
………隠し事してんな。
優子はいつもそう。
隠し事をしているときは、必ず唇を噛む。
「は、履き潰しちゃって…。」
だんだん、声に力がなくなる。
なにを隠してんだよ…。
「いっ行こっか!!」
聞かないで……――
そう、言われた気がして何も言えなくて、何も聞けなかった……。