恋する手のひら
「何でこんなになるまで我慢したのよ…」

「───最後の夏なのに。
簡単にコート下りて堪るかよ」

でも、練習試合で無理してどうするのよ。
私の顔にそう書いてあったのか、秀平はぽつりとつぶやいた。

「もう、ベンチから見てるだけは嫌なんだ」

その言葉にようやく秀平の気持ちが分かった。

退院後、長いこと安静を言い渡されてた秀平は試合はもちろん練習にさえ加われなかったし、練習に復帰してからも試合は全てメンバーから外されてた。

入部当初からタケルと共にレギュラーを勝ち取ってきた秀平にとって、それがどれだけ悔しいことか私は全然分かってなかった。

今日は久しぶりのスタメン復帰だって知ってたのに。


遠くでホイッスルが鳴るのが聞こえた。
後半戦が始まったはずなのに、私はこの場を動けない。

肩を落とした秀平を残しておけないからじゃない。
ただ、私が秀平の側にいたかった。
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