恋する手のひら
「『カレー頭から被るのは林原くらいのもんだ』っつったら、あいつ笑って相槌をうったんだよ。
『あれは強烈だったよな』って」

古典の林原先生が生徒にカレーをかけられたのは、もう二年も前の話だ。

「秀平を試したわけじゃなかったけど。
たまたま口にした、そんな出来事を覚えてるなら、記憶が戻ってるんだと確信した。
問い詰めたら、あいつすぐに白状したよ」

そんなこと話してたなんて、全然知らなかった。

きっと私が落としたスプーンを取り替えに行ってた間のことだ。

そして思い出す。
席に戻った後、秀平とタケルの様子がおかしかったことを。
その日一日、タケルが無口だったことを。

あの日、別れ際に急に抱きしめて、私が離れていくのが怖いと言ったタケル。

てっきり秀平が希美ちゃんと別れたから、私が彼にまた惹かれるのを不安になっているんだと思ってた。

だけど違ったんだ。
秀平が記憶を取り戻したから、あんなにも不安そうだったんだ。
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