恋する手のひら
そのとき、ポケットの中で携帯電話が震えた。
着信の相手は実果だった。

『待たせてごめんね。
今、模擬店を出たとこ。
秀平はどこにいる?』

俺は隣のタケルに目をやり、

「食堂でコーヒー飲んでた。
タケルが暇そうにしてたから、一緒にそっち行くよ」

一方的にそう言って電話を切ると、タケルは急に慌て出す。

「ちょっと待てよ、今の実果だろ?
お前、俺の話聞いてなかったのかよ」

タケルが俺の服の裾を引っ張りながら悪態づく。

「観念しろ、行くぞ」

俺はタケルの服を掴み、ベンチから立たせる。

「記憶のない間に人の彼女を横取りしたんだ、これくらい仕返しさせろよな」

俺が冗談混じりにそう言って舌を出すと、タケルも真似て言う。

「お前こそ、あんな風に奪い返しておいてよく言うよ」

俺らは顔を見合わせて笑った。
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