初恋の実らせ方
急に啓吾の顔がアップになって慌てる。


遠くから見てるだけでもついポーッとなっちゃうくらいなのに、この至近距離はやばい。


袴を穿けば、たいしたことない男子だって三割増しに見えるくらいなんだから、普段から完璧な啓吾に至っては『近寄るな危険』レベルだ。


「な、何でもない。
ゴムが固かっただけ」


まさか見とれてました、なんて言えるはずもなく、彩は大きく首を横に振る。


挙動不審な彩に苦笑しながら啓吾は弓懸けを外すと、彩のゴム弓を手に取った。


「ゴム弓が引けないうちは、本物は持たせられないな」


啓吾はそれを綺麗な型で引いて見せた後、首を傾げながら彩に投げて寄越す。


「ゴムが固過ぎるわけじゃないし。
―――さては、俺に見とれてただろ」


途端に真っ赤になった彩をかわいいと思いながら、啓吾は彩を的前まで引っ張って行くと、


「見ててやるからゴム弓を引いてみな」


そう急かした。
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