初恋の実らせ方
だから。
無自覚ゆえの、この距離が危険なんだってば!


だけど、啓吾につきっきりで教えてもらえるラッキーな機会なんてそうない。


彩は騒ぎ立てる心臓を落ち着かせながらゴム弓を引き始めた。


弓道は形式を重んじる競技。
その動作は射法八節に分けられる。


「待って、会が短い」


しばらくして、啓吾のストップがかかった。


会というのは、弓を引き分けた状態で止まること。


今度は会を意識しながらやり直し、どうだ、と振り返ると、啓吾が今度は微笑みを湛えていた。


「まあまあかな」


啓吾の言葉は素っ気なかったけれど、その笑顔は反則だ。
途端に彩の胸はときめいてしまう。


そんな彩をその場に残し、啓吾は弓矢を持って戻って来た。


「引いてみる?本物」


本物を引けるのは嬉しいけど少し怖くて躊躇していると、


「一緒に引くから大丈夫だよ」


啓吾は彩の手を取って、慣れた手つきで自分の弓懸けを付けてくれた。
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