初恋の実らせ方
「着ちゃいなさいっ」


母親の口調を真似て英知がカーディガンを投げて寄越したのがまた腹立たしい。


英知にべーっと舌を出すと、彩はそれに腕を通しながら、そうだ、とつぶやく。


「ていうか、何で英知を部屋に入れるの?」


「あんた寝起き悪いんだもの。
英ちゃんが起こしてくれるって言うから頼んだのよ」


母親は英知と顔を見合わせながら、「「ねーっ」」なんて同意し合ってる。


そのせいで遅刻なんですけど。
という言葉を飲み込みながら、彩はお弁当を鞄に押し込む。


娘の部屋に、男の子を簡単に入れるのは母親としてどうなの?


英知は弟みたいなものだし、母親もそう思ってるに違いないけど。
たとえそれでも寝顔なんか見られたくない。
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