初恋の実らせ方
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「―――で、どういうこと?」


昼休みの終わり間近、学食にいた生徒たちが連れ立って教室棟へ向かう中で、啓吾は隣りを歩く彩にだけ聞こえるように言った。


彩は啓吾の顔を見られない。
必死に言葉を探しているのに、ごまかすことも、言い訳すら見つからない。


「さっき、俺はまだキスさせてもらえてないって、否定しても良かったけど」


啓吾の口調は思いの外明るい。


「何かあった?
―――どうせ昨日だろ?」


啓吾は確信していた。
何かあったとすれば目の届かなかった昨日しかなかったから。


案の定、彩は否定しない。
黙って床を見つめ、どう答えるべきなのか言葉を選んでいるようだった。


やっぱり原因は英知か。
啓吾は内心で舌打ちした。


「英知と何かあった?」


彩は答えなかったけれど、途端に顔を上げて啓吾を見た様子が、それを肯定していた。
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