LOST OF THE
WORLD
「ユキちゃん」
タクシー乗り場に着くとやはり圭一が黄色いのを一台捕まえて立っていた。
赤いダウンベストに細身のスキニーというラフなスタイルの彼は、180cmある身長のせいか随分と目立つ。
自分のトランクはもうつんであるらしく、圭一は荷物を渡すようユキに催促した。他人からみると、ただでさえ目立つ二人組なのに、これが旅行に行くカップルに見えないはずがない。
だが当の本人たちはそんな外の気も知らず、黙々と荷物をタクシーの荷台に詰め込んでいた。恐らく、これから彼らが口実上、外国に“行方不明”の知り合いを探しに行くとは、誰も思わないだろう。
それくらい和やかに事が進んでいるようにみえた。
これも、全部圭一の人柄のおかげだと思うが、ユキはあえていつも通り接する。そうしたかったし、そうしなければいけないように思えた。
せっかく圭一が作り出してくれた空気を壊すわけにはいかない。本当は胃がキリキリと痛んでしょうがなかったが、それはきっと圭一も同じであろう。期待感と何か踏み越えてはいけないような恐怖感で、胸が押し潰されそうになる。でも向かわなければならない場所が、彼らには、あった。
「じゃあ、行こっか」
荷物を積み終えた圭一が優しくこちらをふり返る。笑顔のままの彼に、ユキはどうしても心救われてしまうのだった。
