柾彦さまの恋
祐里が鶴久病院を出ると、珍しく学校帰りの優祐が佇んでいた。
「母上さま。そろそろ、お帰りの時間ではないかと待っていました」
優祐は、学校が終わると、
急に胸の内が葉の擦(こす)れるようなさわさわとした気分に陥り、
祐里のことが気になって、通学路から外れた鶴久病院に足を向けた。
「優祐さん、ありがとうございます。ご一緒に帰りましょう」
祐里は、微笑んで、優しい母の表情を優祐に向ける。
優祐の気遣いが嬉しかった。
優祐は、成長期に入り、いつの間にか祐里と同じくらいの背丈になっていた。
祐里は、優祐と並んで、桜川の土手沿いの道を歩く。
「母上さまは、柾彦先生とは友だちだから、病院のお手伝いをされているのですか」
優祐は、微かに消毒液の匂いの残る祐里に思いきって問いかけた。
大好きな祐里を柾彦や入院患者に横取りされたように感じながらも、
そのように思うこころの狭い自分を恥じていた。
「優祐さんは、柾彦先生をお好きでございますか」
「はい。お会いすると、楽しいお話をたくさんしてくださって、
元気付けられますので、大好きです」
祐里は、微笑みながら優祐に問い返す。
優祐は、青空のように清々しい柾彦を思い出していた。
「私も柾彦先生にいつも元気をいただいてございます。
柾彦先生は、お友だちと申し上げるよりも、兄妹のような・・・・・・
優祐さんにとっての祐雫さんのような感じでございますね」
祐里は、優祐に答えながら、自身の胸にも言い聞かせていた。
「それに、病院のお手伝いをさせていただいているのではなく、
入院されている方とお話をさせていただいてございますの」
優祐は、自身の狭いこころを反省し
(母上さまは、神さまのようなお方です)
と祐里の慈悲深いこころに感じ入っていた。