冬うらら 1.5

 彼の甲斐性とは、まったくもって違うカナタにあるものを。

 笑顔なんて、誰でも出すことが出来て、1円もかからないスマイルというものなのだ。

 そんな、どこにでもはいて捨てるようなものを、どうしてわざわざお願いなんて。

 は。

 己を振り返れば、そんなことを言えるハズもなかった。

 これまで、何度彼女の前で笑顔を見せたというのか。

 思い出しても、一番最初の出会いの『水割り爆笑事件』辺り以外では、まったくなかったような気がした。

 ということは、自分はいつもメイの前で仏頂面だったり、怒鳴ったりと、そんな表情しかしていなかったのである。

 そんな男と、よくも結婚してくれる気になったものだ。

 それじゃあ、ここで笑顔を一つ。

 しかし。

 そんな器用なことが出来る男なら、もっとうまく彼女と幸せを掴めていたハズだ。

 カイトは、イヤな汗をだらだらとかいた。

 メイが望むのなら、笑顔の一つや二つをプレゼントしたかった。

 しかし、かしこまって出せと言われても出るものではないのだ。

 特に彼の笑顔とやらは。

 その上、期待に満ちた目が自分を見ている。

 期待に応えられるような笑顔を、自分は出せるのか。

 メイの、あの太陽のような笑顔を見た後で、だ。

 頭の中を、ぐるぐると、『期待と失望』、『甲斐性と人間性』、『プライドと愛』などという言葉が巡っていく。

 熱が出て倒れそうなくらい、頭の中は大変な騒ぎだった。


「ダメ?」


 見上げてくる、お願いの目。


 絶体―― 絶命のピンチだった。


--終--

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