冬うらら 1.5

 あの不意打ちの抱擁がいけない。

 あんなに接触好きな人だとは思わなかった。

 そういえば―― 最初に出会った時も、彼女は抱きしめられていた。

 思い出すと、少し胸が痛い。

 あんなところで働いていたという事実もだけれども、カイトが今までそんな風に女性に対していたのかと思うと。

 いけない。

 メイは、頭をプルプルと振った。

 思いが通じただけでも信じられないのに、その翌日には結婚までしてしまって。

 これ以上、何のゼイタクを考えているのか、と自分を叱咤した。

 カイトが過去いろんな女性を抱きしめていたとしても、結婚相手は一人しか選べないのだ。

 最後は、メイを選んでくれたのである。

 やっぱり、信じられない事実なのだが。

 だが、いまはそれどころではない。

 大事件が起きてしまったのだ。

 でなければ、わざわざ勤務中のカイトを訪ねてきたりはしない。

 どうしよう。

 胸の中にある言葉はそれだけ。

 会社が終わって、帰ってくるのを待つ方がいいのだろうか。

 普通に考えれば、そっちの方がいいはずだ。

 しかし、内容が内容だった。

 何度も何度も、ビルの前をうろうろした。

 カイトが偶然出てくる―― なんてことはなかった。

 やっぱり。

 メイは、くるりとビルに背中を向けた。

 やっぱり、いきなり訪ねるのは失礼だと思ったのだ。

 カイトだって恥ずかしい思いをするに違いない、と。

 そして。

 勇気を出して、公衆電話の受話器を取ったのだ。
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