冬うらら 1.5

 ど、どうしよう。

 メイは、鋼南電気の会社の前で、ウロウロしていた。

 電話帳で住所を調べて、ようやくたどりついたのだ。

 もうすぐ12時。

 ここに来る前に、いくつか寄り道をしてきた。

 一つは、元のアパート。

 戸締まりの確認と、貴重品や簡単な身の回りのものを引き上げてきた。

 貴重品と言っても、カイトにもらったお金が入っている通帳くらいだ。
 あとは化粧品と着替え関係をちょっと。

 他にも持って帰りたいものがいくつかあった。

 正式に、引き払いに来なければいけないだろう。

 いつまでも、こうして放っておくワケにはいかないから。

 部屋でいろんな感慨にふけっている場合ではなかった。
 急ぐべき仕事が、残っていたのである。

 アパートで、慌てて化粧だけすると出た。

 本当は、カイトに電話を入れようと思ったのだ。

 しかし、会社への電話というのは、トラウマが邪魔してできなかったのである。

 メイが迷子になった時、彼女自身で一回。
 派出所の巡査さんから一回、会社に電話を入れたのだ。

 1ヶ月くらい前の出来事で、覚えている人はいないかもしれないが、やっぱりすごく怖くなって。

 そうしているうちに、ここまでたどり着いてしまった。

 ケイタイ番号を聞いておけば、こんな苦労なんかしなくてすんだのに、昨日も今日も、まだそれどころじゃなかった。

 結婚生活に慣れようと努力をしている矢先に、ぎゅっと抱きしめられて。

 抱きしめられると、頭が真っ白になってしまって、また一から慣れをやりなおさなければならないのだ。
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