冬うらら 1.5

「いい、寝てろ」

 慌ててカイトは、彼女をぎゅっと布団の中に押し込むなり、1人でベッドから出た。

 何も着ていないのは、彼も一緒だ。

 暖房は効いているが、やはりこんな格好で長くいて平気なワケじゃない。

 それに、早く用意を済ませないと、本当に遅刻だった。

 あのシュウに、結婚してたるんだなどと言われないためにも、彼は遅刻するワケにはいかなかったのである。

 着替えをとっ掴むと脱衣所に駆け込み、身支度を2分で済ませた。

 おかげで洗面所は水浸しになったのだが、彼はそれに気づかずに、急いでシャツのボタンを止めながら部屋の方に戻ったのである。

 メイは、起き上がっていた。

 正確には、引っぱり出した毛布にくるまったまま、身体を起こしているだけだ。

 心配そうな目で、出てきたカイトを見ている。

 寝坊して朝食も間に合わず、カイトまでも遅刻させそうになったことを、きっといまごろ後悔しているのだ。

 んな、ツラすんな!

 大股で、そんなメイの方に戻りながら、カイトは言葉を考えていた。

「遅刻は、しねぇ」

 けれども、出てきたのはそんな味気ない言葉。

 これくらいで、メイを安心させられるとは思わず、彼は余計に顔を顰めてしまった。

 慌ててその表情を消すように、彼女の目の前に立つ。

 それからベッドに片膝をついて身をかがめた。

 そうすると、ベッドの上に座っているメイとは、そんなに身長差を感じなくなる。

 この時間のない時に、何故わざわざベッドまで戻ってきたか。

 それは、メイにしてもらわなければならないことがあったからだ。

 朝食の時間はなくても、これだけはカイトだって失いたくない時間。
< 88 / 102 >

この作品をシェア

pagetop