冬うらら 1.5

 確かに、この家の調理場には給湯器がない。

 今まで男所帯だったため、彼らがその場所を使うことなど、ほとんどなかっただろう。

 ハルコが、家政婦としてやってきている時は、確かにそこはいろいろ使っていた。

 一度、給湯設備を入れませんか、とカイトに聞いた時には、すげなく『必要ねぇ』で蹴られてしまい、彼女は冷たい思いをしたのだ。

 それなのに、なぜ今更給湯器が。

「あの…やっぱり何かの間違いじゃぁ」

 不安そうに、メイは工事の人に声をかける。

 彼女の預かり知らないことであるのは、その様子から明白だった。

「えー? 間違いじゃないですよ。今朝、緊急の工事依頼が入ったんですから…ねぇ、おやっさん?」

 若い方が、どうしてそこまで食い下がられるか不満のようで、もう一人の先輩を呼ぶために声をかけた。

「あぁ…今日朝イチで電話が入って…えらく急ぎで、どうしても今日中につけろ、と…心配なら、確認しましょうか?」

 手元の伝票を見ながらしゃべる男は、最後には不安な口調になった。

 まさか、イタズラとかではないだろうかとでも思ったのだろう。

 メイが反応するより。

「ええ、それなら工事をお願いします」

 笑顔を止めきれなくなったハルコが、工事許可を出した。

 誰がどういう理由でそんなことをしたのか、彼女にはもうおかしいくらいに分かってしまったのだ。

 カイトだ。

 もう、絶対に間違いなかった。

 無理矢理、ガス工事をねじこむような男は、彼くらいしかいなかった。

 メイは、意味がよく分からないのか、泳ぐような落ち着かない目でハルコを見るのだ。

 ほんとにもう。

 彼女が絡めば、カイトはどんなことでもやるのではないだろうかと思ってしまった。

 それくらい大きな出来事だったのだ。

 なのにメイときたら、事態を把握できないでいる。

 ここまでカイトに愛される人間がいたのだ。

 同じ女として、少し妬けてしまう。

 そうして、ちょっとの悔しさとたくさんの笑顔を混ぜながら言ったのだ。

「私の時は…つけてくれなかったのよ」


 本日最高の、『おみやげ』のテイクアウトが決まった。
< 97 / 102 >

この作品をシェア

pagetop