岸谷くんのノート



そのまま薄暗い廊下の突き当たり、あんまり使われていない第二音楽室の前で灯は逃げ場を失ってしまった。


「はぁはぁはぁ…」


息が上がる。


体育以外で走る事なんてめったに無いのに。


「はぁはぁはぁ…」



その後ろで長距離走が苦手な男がフラフラしながら足を止める。


「はぁはぁはぁ…」


お互い、乱れた息を整えながらただ見つめ合ってみた。


「な、…はあ、っなに。」


やっとの事で灯が声を出す。


「はぁはぁ…、っなんで追いかけてくるの…?」


「はぁはぁ…、だって井上が逃げるから…っ」


肩で息をする岸谷くんに、灯は首を傾げる。


「…っ、岸谷くんその前から走ってたじゃん。」


やっと落ちついて来た息をもう一度ゆっくり吸い込んで、灯は少し笑った。




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