岸谷くんのノート
「…そうだっけ。」
それにつられて岸谷くんも下手くそな笑顔を作る。
クシャッとした、なんだか困っているような、不機嫌そうな…変な笑顔。
灯はフハハと首を天井に向けながら笑って、その後へたり込んだ。
足が痛い。
明らかに運動不足だ。
「…返して貰おうと思って。」
「へ?」
岸谷くんが遠慮がちに灯の手の中を指差した。
灯はそのノートをゆっくりと見つめる。
名前の欄にガッツリ“岸谷”とかかれていた。
「え!これ岸谷くんのノート?!」
「…うん。」
岸谷くんはポリポリ頭を掻いてぬっと腕を突き出す。
「…。」
返して、と突き出された手に、灯はなかなかノートを置けないでいた。
「…。」
「…井上?」
「ね、ちょっとこのノート借りてていい?」
「…っ!?」
灯は遠慮がちに訪ねた。