岸谷くんのノート
"岸谷くん"は怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
灯はまさか気付かれるなんて思っても無かったので一気にパニックになる。心臓の当たりが今までにないぐらいドキンドキンと存在を主張していた。
半年前に靴の中にちっさいおっさんが入ってた時ぐらいドキドキしている。(誰も信じてくれなかったけど。)
どうしよう。
俺のケツみてただろうとか言われたら…。ハイ、ミテマシタとしかいえない。
岸谷くんは眉間に太いシワを寄せながら小声で続ける。
「…。消しゴムか?」
へ?消しゴム?
「あ、え…、」
灯がもごもごテンパっているのを肯定とみなしたのか、岸谷くんは無言で自分の消しゴムを隣の挙動不審な女に突き出した。
「あ、りがとう…。」
灯は両手でそれを受け取りながら、目を点にしている。
岸谷くんはいつのまにか何事もなかったように黒板を見つめていた。
ただ、眉間のシワはそのままで、酷く不機嫌そうだ。
「……。」
灯は机の上に乗せた"岸谷くんの消しゴム"をツンツンと指でつついてみる。
びっくりするぐらい素朴な四角くて白い消しゴム。
「………。」
コロコロ…
コロコロコロ…
「(…ふふ、)」
灯は目の前にあった理科のノートの端に、カリカリと記入し始めた。
"岸谷くん"
"字上手い"
"足無駄に長い。"
"眉間にシワ"
"岸谷くんはイイヤツ"
灯はこっそり、ふふふん♪と上機嫌に微笑んだ。