岸谷くんのノート
灯の"岸谷くん観察日記"はその後も続いた。
岸谷くんは少し怖い顔をしている。
けして濃い顔ではないのだけれど、やたらと眼力が凄いのだ。
そして事ある毎に眉間にシワが寄る。
現国の気弱な先生が岸谷くんに質問する度に彼の眼力と眉間のシワが発動し、先生が肩を震わせている。
それはヤンキーとかではなく、極道的な渋さを匂わせた。
しかしその怖い顔を除けば、彼は至って普通の男子高校生である。
少し短めの髪に、いつも固く閉じられた唇。いじってないのに整った眉。背は高めで、声は低め。
たいがいケタケタと笑う楠田くんという人と一緒に居る。
楠田くんと一緒に教室の隅で売店の特大味噌カツサンドをペロリと二個食べる。
岸谷くんは無口だ。
ペラペラ喋る楠田くんの隣でパックの牛乳を飲みながら「ん。」しか相づちを打たない時もあった。それでも会話が成り立っているのは楠田くんが良く彼を理解しているからなのかなんなのか。
灯はとりあえず"岸谷くんはデカくて無口"というカテゴリに落ち着いた。
「そんな岸谷くんがねぇ…」
「岸谷くんがどした?」