王子様のしつけかた☆

-*-健-*-

「比奈ー。今日も一緒に帰るぞ」


俺は比奈に声をかけた。


どこか遠くを見ていて、俺の声は全く届


いていない。


 俺が図書館で告った時から2週間たっ


たけれど、なんとなく比奈との関係はあ


んまり変わった気がしなかった。


「おい、聞いてんのか」


比奈の、白くて細い手首をつかんだ。


なんだか折れそうで、壊れてしまいそう


だった。


比奈は、いつもの感じで言った。


「あ、ごめん。いこっか」


そういって、靴を履きに玄関へ向かう。


部活は今日も淡々とこなし、いつもと同


じように終えた。


ただ、比奈と付き合ってからは前よりも


ちゃんと練習するようになった。


今までは、ただなんとなくやっていた。


 ローファーを履いている比奈を見て


俺は心配になった。


絶対、最近頑張り過ぎだ。


「今日は寄り道なしな。最近部活長くて


比奈も疲れてるだろ?」


「え?全然大丈夫だよ!どうせマネは


記録だけだし」


嘘だ。


素直じゃない。


なんでそんなに俺に気を張るんだろう?


「昨日、授業中寝てた」


比奈は、びっくりした。


「み…見られた…」


俺は同じクラスだし、後ろの席だから比


奈のことがよく見える。


「比奈、いつも寝ないのに。寝てた。あ


んま無理すんな」


少しは、甘えてほしい。


俺は苦しかった。


「ありがとう。じゃあ今日は早く寝る」


そう言って、比奈は笑った。


それを見て、なぜか急に比奈が愛しくな


った。本当に可愛い。


我慢できなくて、比奈の頭を自分に引き


寄せた。


「それでいい」


すると、比奈がぴょこっと顔を上げた。


「あ!一ノ瀬くん、ここ玄関だよっ?


誰かに見られちゃうよ!」


俺は「一ノ瀬くん」に反応した。


比奈は、まだ「健」と名前で呼んでくれ


ない。


それに、誰に見られてもかまわない。


俺は、怒った顔をしてみた。


「気にしてねえし。あと、名前」


「え?」


「名前で呼べ」


「あ…」


「無理か?」


比奈はうつむいた。


「慣れなくて…。なんか、その、恥ずか


しい」


恥ずかしいのはわかるけど、それでも名


前で呼んでほしい。そう思った。


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