雪人
 そこに、戦場に似つかわしくない白い煌びやかなドレスを身に付けた女性が、倒れたレミリアに駆け寄り抱き起こす。
 それを、敵の兵士も固唾を飲んで見守る。
 マリアの泣き腫らした顔を血に濡れたレミリアの手が添えられた。マリアの涙がレミリアの顔に零れ落ち、笑顔を湛えたまま亡くなったのだった。
 マリアの純白のドレスが愛する人の血で染まる。
 侵しがたい二人の空気が辺りに広がっていった。そして、次々に二人の方へ顔が向けらる。
 神秘的な空間がマリアとレミリアを中心に発せられ、一人の乙女の慈悲の涙が愛する人に落ちた。
 瞬間、凄まじい光輝が二人から解き放たれ、それが世界を光一色で包む。
 神々しい光が薄れ消えていき、世界は悲しみに溢れ返った。
 満月が一滴の涙を流し、それが地上にいるレミリアとマリアを包み込こんだ。包み込まれた二人は宙に浮かび上がっていき、満月に誘われようにして還っていったという。
 その後、世界には争いが無くなり、平和が浸透していった。
 これが月明記(月冥記)の全容ではなく、一般的に普及し、知られる全容である。嘘か真実なのかは、見つかった今でも検討がなされ、未だに未解明である。
 月明記(月冥記)を読んだ結果、騎士への思いは人一倍強くなり、憧れを現実にするために弛まぬ努力をし続けようと決意する。
 しかし、彼の家柄は騎士とは無縁の家柄だった。
 ベルライズ=トリテラスの家柄は元来、軍師家系に属していた。加えて、彼は長男として生まれてきたわけで、初めから進む道が決まっている。
 どうすることもできない状況なだけに、表では家系に従い、裏では、隠れて剣技の稽古を人知れずやらなければ、止めさせられてしまう。幼いながらに、後ろめたい思いを感じていた。そして、そんな彼にも天機が訪れたのだった。
 地国の王都で催される武道大会。その噂を耳にした幼い頃のベルライズは、これ見よがしにチャンスだと思った。これに参加して勝てば、剣の道に進むことを認めてもらえれると思ったのだ。
 大会当日、ベルライズ14歳。家族には秘密に試合参加のエントリーを済ませたベルライズは、勝ち進めば公に剣の稽古ができることを認めてもらい、憧れがまた一歩、現実へと近づくことに胸を踊らせるのだった。
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