妖恋
少女は妖狗と呼んだ妖へと近づき妖の血に濡れた頬に手をあてた。
「妖狗・・・。ごめんなさい」
弱弱しく小刻みに体をふるわせて下を俯いた。
頬に触れた寒さに冷えた手に自分の手を重ねて少女の顔を覗き込む。

「雅嬢?どうかしました?どこか、怪我でもされたのですか?なぜ、この僕に謝罪の言葉を述べるのですか?やはり、どこか怪我をされたのですね?・・・・。許せませんね。
少々お待ちを、今度はもっと残虐に壊したものをもう一度壊してきましょう」
「違うの!・・・・私は怪我なんてしてないの。・・・ただ」
顔をあげ、瞳には涙までためて否定した。
「また、私はあなたに・・・・!」

言葉を出そうとして呑みこんだ。出せなかった。少女に意見を述べる権利はなかった。
うるんだ瞳が目を閉じると涙は頬を伝った。
「・・・・・ごめんなさい・・」

彼女が泣くのなんて見ていられなかった。妖は自分の頬に触れている手を放させ、
前かがみになって彼女の顔に自分の顔を近づけて目元を伝う滴を舌で舐めぬぐった。
「・・・・・っ!」

突然のことに目を見開く。妖の長いまつげをただ、どうすることもできず見つめていた。
ハッとして離れようとするが頭部を大きな手で押さえられてどうすることもできない。
抗うことを諦めたことが分かると妖の手はそのままスーッと下に滑り、赤子をあやすようにやさしく少女の黒髪をなで始める。
妖の白い髪が顔のあちこちに掠れてこしょばゆい。
胸の奥底で何かが早鐘を打ち鳴らす。その音は全身に広がり次第に大きくなる。
彼に聞こえてしまってはいるのではないかと錯覚しそうになった。
生温かい感触が頬を滑るのはなんともいえない心地よさがあった。
その姿はまるで主人に忠実な狗のようで・・・

しばらくして、満足したのか舌を頬から妖は少女を横抱きにして抱え上げた。
華奢な体はすっぽりと妖の腕へとおさまる。
体を妖の胸にあずけ、もたれかかり少女は息をつく。





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