【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

12.嫌がらせ -神楽-





仕事合間に
零れ出るのは溜息ばかり。


溜息吐くたびに
幸せが少しずつ逃げるって
誰かが言ってたのに。



恭也と会った次の日は、
途端に寂しさが押し寄せてくる。




お互いの愛しさと切なさを
抱きしめあった次の日は
夢から現実に覚めていく
そんな虚しさで押しつぶされそうになる。



目を閉じただけで
彼が触れた指先の動きを思い出す。

彼の腕の中で
どれだけ愛されたか、雫を落としたか
思い出すことが出来る。

それだけで……
もう一度、
彼を求めて熱を持ち始める正直な体。



だけど……彼は、
婚約者の居る身。




どれだけ愛し合っていても、
思い続けていても
あの祐天寺さんの代わりに私が
恭也の婚約者になり代わるなんて出来ない。




例え……封印していたピアニスト、
藤本智志、結愛夫妻の
子供だと言うことを武器にしても……。



叶うはずがない、
そんな雲の上の一族が祐天寺家だから。




そんな解決することのない思いを
考えては、溜息を繰り返す。




「神楽……また溜息……。
 ホントに何やってんのよ。

 少し時間作るから、
 仕事の後、出かけよう」



そう言って心配した文香は
声をかけてくれる。


19時頃。

夕方のレッスンを終えて、
退勤した後は、
文香と二人レストランで食事会。


女二人だけで過ごす
ゆったりとした時間。



だけどそんな場所でも、
カップルの姿を見つける度に
恭也の姿を探してしまう。



祐天寺昭乃と
出掛けているかもしれないと……。





どんなに恭也のお母様に
必要とされているからと
大義名分を振りかざしても
現実は変わることがない。



報われることのない恋に焦がれて
溜息だけが増えていく。



「神楽、勇生君から聞いたわよ。

 恭也君の様子も不安定になってる見たいだけど、
 勇生君、神楽の事を心配してたわよ。

 何時まで、そんなこと続けるの?
 あの子はもう、祐天寺昭乃と婚約したのよ。

 神楽は捨てられたんだよ。

 アンタも若くないんだから、
 ねっ、本当意味での女の幸せ掴んでもいいんじゃない?」



ワインを飲みながら、
そうやって切り出す文香の言葉。




文香が心配してくれてるのもわかる。


充分すぎるほどに伝わってくるけど、
恭也から離れることが
私にはたえられないの。




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