【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】





このままじゃ……
神楽さんを幸せに出来ない。



ただそんな焦りが
時間を奪っていく。



流れていく時間は、
やがて結婚式の招待状を出す二か月前を告げた。



祐天寺の招待者リストは、
政財界に名を連ねた一族だけあって
半端なかった。



それに伴い、俺の方は少ない。



それに……俺の本音で言えば、
俺自身が、親族の誰にもむこの結婚式には
来て欲しくなかった。



隣で笑う花嫁は、
神楽さんじゃないから……。



だけど親族の参加しない結婚式など
ありえない。


そこで俺は、母さんに重い口を開く。



「母さん、
 俺……結婚することになりました」



そう言葉を紡ぎながら、
こみ上げてくるものを
飲み込むように抑え込む。



「神楽さん……ね」



そう言って信じて疑わない母さんに、
更に言葉を続ける。




「いえっ、祐天寺昭乃さんです」



そうやって何とか、絞り出すように
婚約者の名前を告げた途端、
物静かな母が、手当たり次第に身近なものを手にとっては
俺に投げつけて、そのまま自分の部屋へと閉じこもってしまう。



その後は、俺が居る時間は
どう頑張っても、その扉が開くことはない。




閉じこもって頑なに拒絶し続ける
母さんの前で、何をすることも出来ず
ただその場で崩れ落ちる。




ちくショー。
どうしろって言うんだよ。



悔し紛れに、心の中で叫びながら
何度も拳を床に打ち付けた。




そんな手を傍に近づいた
その人は掴み取る。



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