【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】





「えっ……えぇ」

「良かったー。
 私、檜野倫華(ひのともか)です」



檜野倫華と名乗った女性は、
ゆっくりと私に手を差し出してきた。


戸惑う私に、自らの手を重ねてくる。



「良かったら、お友達に……。
 
 私もこの通り、妊娠中。
 二人目なんだけど、11月が予定日。

 貴方は?」


「神楽……。

 結城神楽です」

「神楽ちゃんね」



そうやって微笑みかけた倫華さんに、
幼い子供が「ママ」と呼びかける声。


その声がする方を振り返ると、
女の子と手を繋いで、
ゆっくりとこちらへと歩いてくる男の人。




「和羽(かずは)……ご挨拶は?」



倫華さんの言葉に、
和羽ちゃんは私の方へトコトコと走って来て
ゆっくりお辞儀をして、『ひの かずはです』と呟いた。



「神楽ちゃん、こちらは私の主人。
 優典(まさのり)さん。

 優典さん、こちら結城神楽さんよ。

 さっき、お友達になったの」



そうやって倫華さんが紹介すると、
優典さんはゆっくりと私にお辞儀をした。




そのまま彼らの自宅に招待されて、
お茶のひと時を過ごす。




お茶の席で和羽ちゃんが、
『ピアノを習いたい』と言う言葉に
私の心が反応する。




「私で良かったらピアノ教えるわよ。

 まだ引っ越ししたばかりで荷物が片付いてないけど
 グランドピアノもあるから」



持ってきたのは、
捨てることが出来なかった
私の大切グランドピアノ。


スタインウェイ。



借りた部屋に不似合いなサイズの
グランドピアノ。


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