【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「あっ……。

 結城神楽です。
 今日は、友達の文香に誘われて来ました。
 
 ピアノ講師してます」




そうやって自己紹介した神楽さんの声は、
ガチガチに固まってる。


いつもはもっと、素敵な人なのに……
今はわざと冴えない自分を装っているのか、
地味なパンツルックに身を包んでる神楽さんは、
スルーされたように、
次の友達へと視線が向けられた。





あっ……俯いちゃった……。





すぐにでも近くに行って、
声をかけたいのに……
今はまだ動けない。




『ねぇ、恭也。
 いい機会じゃん。
 
 今日の目標、
 神楽ちゃんの電話番号GETにしたら?』



耳打ちするように、
ひそひそと声をかける勇生。



『検討を祈る』


逆側からは、雄矢が告げる。




お前ら、揃いも揃って
遊びすぎだろ。




最後の一人の、
文香さんの自己紹介が終わると
それぞれに自由タイム。





気になる人のところに向かう時間。


真っ先に席を立って、
神楽さんのところに
行こうとした俺の前には、
夜会巻の髪の女。





確か……祐天寺とか言ったか……。






「お隣、よろしくて?」




そう言いながら、俺の返事を待つ前に
隣に座り込んだ祐天寺。




俺の隣、祐天寺は
どうでもいい自慢話を延々と話し続ける。



適当に相槌をうちながら、
離れられるタイミングを探しつつ
神楽さんの方を見つめると、
神楽さんは
……やけ食いしてた……。







神楽さんの周囲には……
誰も居ない。






一人だけに孤立した、
彼女は……お酒やご飯を一人楽しんでた。
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