【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】

5.父の旅立ち -恭也-




「恭也くん、有難う」


仕事の合間に、
親友、雄矢の家を訪問した俺に
リズ夫人は、柔らかに微笑みかける。



2年間の前期研修。

そして続いて始まった、
5年間の後期研修期間。



俺と神楽さんが、
進展がない今も、
親友たち二人は確実に、
幸せな時間を過ごしていた。


父親の病院の後継ぎとして、
毎日、病院の臨床勉強と
経営勉強に奔走する雄矢。


その隣には、
もうすぐ4歳を迎える
二人の男の子。


養子として迎え入れた、勇人(ゆうと)君と
その4か月年下の実子、千尋(ちひろ)君が
仲良くその近くで遊んでる。


「遅くなってごめん。

 美雪が研修復帰したから、
 なかなかあがれなくて」


そう言って姿を見せたのは、
同じく、今は立派な父親をしてる勇生。


雄矢の息子たちと同い年に誕生した
二人の一人息子、冬生(とうせい)は
少し恥ずかしがり屋なのか、
美雪嬢の後ろにピタリと貼りつくように
雄矢の屋敷へと入って来た。



親友たちの家族と過ごす、
夕食会。



本来なら、この場所に神楽さんも呼んで
楽しく過ごせるはずだったのに、
神楽さんは今は仕事に忙しい。


教え子が何でも有名なピアノコンクールに
出場することが決まったとかで
毎日のように、
通いのレッスンが入ってると言うことだった。



「リズさん、手伝うわ。
 遅くなってごめんなさい。

 男衆は子守しながら、
 積もる話でもしててよ」


そう言うと美雪嬢は、
冬生を勇生に預けて
スタスタっと応接室を後にしていく。



「なぁ、勇生。
 嫁さんっていつもあんな?」

「あんなって言うなよ。

 美雪には、出産の為に
 研修送らせて貰って迷惑かけてるんだ。

 俺の為に逞しくなってくれてんだよ」


逞しく……って。 



そうやって切り返す勇生の言葉を、
雄矢は笑いながら「ごちそうさま」っと
言葉を繋げた。



雄矢の傍には何時の間にか、
膝の上に座って来た実の息子、
千尋君が座り込んできている。



母親であるリズさんに良く似た
その千尋君を撫でながら、
雄矢が切り出した。



「恭也、
 お前もそろそろ身を固めろよ」
 


雄矢の言葉に、勇生も賛同するように
追い打ちをかける。



「そうだよなー。
 俺ら三人の中じゃ、真っ先にお前が神楽さんと結婚して、
 ついで……俺で最後が雄矢っぽかったんだけどな。

 真っ先に結婚したのは雄矢だし。
 家絡み縁談が含まれた、恋愛ってわけわかんねぇーって」


そんな風に勇生は、砕けながら
雄矢の二人の息子を見つめる。
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