【B】明日は来るから 【優しい歌 外伝】



「そうだな」


俺も真剣に考えないといけないな。



そうやって、
今までが真剣に考えていなかったわけじゃないけどっと
心の中で一人付け足しながら、
小さく呟いた。





「お待たせしました。

 お食事の支度が出来ましたので、
 ダイニングまで」




そう言って、ノックした後静かに開かれたドアから
リズ夫人の声が聞こえた。



ダイニングには、
美雪嬢が迎えに行ったらしい子供たちの姿が
すでに三人。




「勇生、これだけの料理なのに
 リズちゃんが一人で作った後だった。

 私ってダメだよね。

 家事もしてるつもりでも、
 勇生と分担して任せてるし。

 こんなお持て成し私には無理。
 私だったら、ケータリングで終わらせちゃうわ」


美雪嬢が弱音を漏らすように
勇生のところへ来る。


その後の夕食の時間。

雄矢も勇生も子育てを立派にしながら
父親の顔を子供たちに見せていて、
何処となく、居心地の悪さを感じた。



神楽さんと俺が結婚して、
勇生や雄矢を招いてパーティ-したいって言ったら
神楽さんはどんな顔をするだろうか?

そんな想像すら、
楽しくなってしまう。





「楽しんでいらっしゃいますか?」



気が付くと、リズ夫人が
俺の傍に近づいてくる。




「先日、神楽さんとお会いしました。
 こちらは、神楽さんに。

 マドレーヌ焼いたんです」

「有難う。
 今日はお会いできなくて残念です」

「神楽に伝えておくよ。
 コンクール前で忙しいらしくて」

「はい。
 また素敵な演奏を聴かせてくださいって
 伝えてくださいね。

 私もピアノは触るけど、
 素敵な演奏には程遠いから。

 ベヒシュタインが悲しみますから」



リズ夫人はそう言って、
柔らかに微笑んだ。




楽しい夕食会を終えた翌日から、
俺はまた新たな気持ちで仕事に臨む。


怯えているのが俺自身なら
俺が強引にでも結婚を切り出せば
神楽さんの心も動かせるかもしれない。


ただ後少し。

今一人で任せられてる、
この患者さんの手術を乗り切れたら。


そんな風に自分の中に試練を決めて、
それを乗り越えた時のご褒美として、
プロポーズを自分の中に決めた。


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