砂のオベリスク~第七大陸紀行~
暗がりに、辺りの音が膨れ上がった。
列車の足音と、
油っぽい金属が擦れ合う高い音、遠くの客車から聞こえる楽しそうな笑い声。
今まで気にならなかった音がやけに耳につく。
針路を神秘の都ミュシャに定めてから、ここまで半日たらず。
列車は満席、出発からもたつき、おまけに、誰が取り付けたのかも分からない電球の最期を看取った。
列車から飛び降りる危険を冒すには、どうも悪い兆しばかりだ。
カメラのレンズが青白く光っていることに気が付いたのは、そのときだった。
振り向くと、天井すれすれにある小さな窓から光がさしていた。
つくりが妙に雑で、列車の振動に合わせてカタカタと鳴っている。ガラスも張られていない。
建て付けも悪かったがどうにか開けると、乾いた涼しい風が吹き込んできた。
外はもう夜だった。
焦った私は身を乗りだし、月の在りかを探した。
何も無い砂漠の上で、濃紺の空が広い。
右を向けば、何両か先の客車の明かりが見えた。光の列が、緩い弧を描いて北へ向かっている。
月は高いところで星の群れと戯れていたが、女商人の示した位置にはまだ来ていなかった。