幸せになりたい女
「ほんとはね・・言っちゃいけなかったんだ・・弘子にも・・美久と卓ちゃんのこと・・内緒にしとけよって言われてて・・」
「ふ~ん・・」
 弘子は興味なさそうだ。五杯目の焼酎もそんなにすすんでない。
「でもね、誰かに言いたかったんだ・・」
「うん・・」
 やっぱり反応が悪い。もっと恋バナしたいのに。もっと突っ込んでほしいのに。なんか弘子ってそういうノリが悪い。
「あとどのくらい待てばいいと思う・・?」
「なにが?」
「・・だからぁ・・卓ちゃん・・いつになったら美久のことみんなに紹介してくれると思う? ねぇ、そんなにその宮城の人たちって、よそ者がなじめない感じなの?」
「そんなことないよ。みんないいやつだし」
「じゃぁ・・!」
「う~ん・・」と、弘子は言葉を選ぶように宙を見た。しばらくだんまりする。イヤな空気。言いたいことがあれば言えばいいのに。でも美久は我慢して弘子の言葉を待った。美久は誰でもいいから安心する言葉が欲しい! 卓ちゃんの彼女として自信が欲しい!
 俯いたままずっと薄くなったカシスオレンジを見てジッとしてたら、やっと弘子が口を開いてくれた。
「私は卓と友達になってまだ三年くらいだけど、それでも美久よりは卓との付き合いは長いから・・だから・・うん・・」
 いつもはっきりものを言う弘子が言いよどんでる・・やだ・・なんかイヤな予感。怖い。
「私は表面的ななぐさめやごまかしができないから・・はっきり言うけど・・卓は女に対してだらしない男よ。美久以外の女の子にも手を出してるのも知ってる。・・地元のグループにも・・いるんだよ。だから美久を連れて行きたくないのはそのせいだと思う・・卓は親しくなった女の子には大体ちょっかい出すのよ。私ですら悟と付き合う前に卓に誘われたことがある。もちろんその気はなかったから断ったけどね。・・美久が卓と一緒に暮らしてるって告白してくれたときも大した驚きはなかった。卓から美久を紹介された時から男と女の関係だろうなって分かってたから」

 後半は弘子が何をしゃべってるのかよく理解できなった。何も言葉が出てこない。
 弘子ってなんなの? そんな話聞きたいわけじゃない・・恋バナってもっと楽しいものだよ・・なんでそんな思いやりのないこと言えるの? この人ホントに女? なんでも分かってるみたいな顔して・・ひどい言葉を弘子はしゃべり続ける。

「あんな男やめろとは言わない。だって男の好みなんて人それぞれだし、卓は女にだらしないってだけで、悪い奴じゃないしね。美久が卓を好きでいるのは自由だよ。ただ・・卓を自分のものだけにするには時間と根性がいると思うよ。それくらいの覚悟があるくらい卓が好きなら私は何も言わない。黙って応援するよ」
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