いざよいの月
 本を開く前、窓を少しだけ開ける。
 光が差し込み熱がこもっている部屋に、ほんの一過ぎ夏の風が吹き込んでくる。
 この出窓が気に入ったから部屋を決めたと、坂井は言った。美緒もこの出窓から差し込む光も風も気に入っていた。
 多分、自分がこの部屋に出入りする前、ここは坂井の指定席だったのだろう。何となくそう思う。
 ここにすわり、窓から光で本を読み、居眠りをして……。
 そうやって美緒は、坂井の行動を自分に当てはめてみる。
 そして坂井と同じ空間を共有することを楽しんでいた。
< 20 / 40 >

この作品をシェア

pagetop