私をブー子と呼ばないで
 翔太はただ謙遜しているだけだと思う。

 もしくは、彼氏が一度もできたことのない私に遠慮しているのかも。

「翔太なら、上司の気持ちをわかるでしょ?」

「悪いけど。パワハラやセクハラする上司の気持ちはわからないよ」

「そうね。翔太は、そういうことをするタイプじゃなかったわ」

 智美がぐいっと梅酒のロックを飲み干す。

 智美は「次は何、飲もうかなあ~?」なんてメニューを捲りながら、右手で軟骨の唐揚げをぱくっと口にした。

「仕事ができると、仲間内で苛めの対象になるのよねえ。全く困るわ」

 智美は独り言のように呟き、店員を呼ぶボタンを綺麗にネイルしてある指で押した。

「智美、爪、綺麗だね」

 きらきらしているストーンと眺めながら、私が口を開くと智美が自分の爪に目をやった。

「ああ、これ? 毎週毎週、大変だよ。女同士の爪争いっ。『今回は○○のネイルサロンに行ったのよ~。雑誌で有名な……』なんて職場で爪自慢よ。ネイルし忘れると、『智美さん、これって先週と同じですよねえ』とかって嫌味連発。ああ、ブー子の職場が羨ましいよ」

 智美が、私の爪をちらっと見た。

 ネイルなんてしてないマッサラな爪を見て、ニヤって笑う。

 私から見れば、自由にネイルをしていける智美のほうが羨ましいよ。

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