はだかの王子さま
 けれども。

 その出来上がったばかりの星羅のドレスは。

 超~~不機嫌な顔をした王さまが、黒竜のソドニと二人がかりで調べ上げられ。

 裏地をごっそり剥ぎ取ってしまったんだ。

 裏地は無くても、外見に影響が無く。

 残った最高級の生地は、肌にも滑らかで、いらない部分って言えばそうなんだけれど。

 そのドレスの裏地には。

 賢介の作った、着ると、その存在感を消す『見えなくなる糸』が混ざっていたらしい。

 どうやら。

 美有希か賢介が、侍女に化け。

 ウェディングドレスに着替えるときに、こっそり、わたしを連れ出す予定だったみたい。

『ま、我も予想しておった範囲だ』

 なんて、得意そうに笑って、王さまは、ドレスの裏地をわたしの目の前で引き裂いた。

『これで、そなたを助けに来る者は、誰もいなくなったのう』

 すべてを諦め我と共に来るのだと、王さまは、偽物の星羅の顔をして笑ったけれど。

 それでも。

 星羅がドレス用の下着だって、一緒に届けられたキャミソールは、無事に残った。

 そこには、姿隠しの糸が織り込まれてなく、とても素敵な花の香りがついていただけだったから。

『ヴェリネルラの香りか……』

 王さまは、そうつぶやくと、キャミソールを投げてよこした。

『かすかにグラウェの加護がついているが、まぁ、良い。
 おそらく、香りを保存する調香用だろうからな。
 この花の香りは儚く、魔法の力無くして長く香るのは難しい』

 いつものゼギアスフェルなら、こんなもので、グラウェなどを使わないのに。

 さすがに、今回は時間がなかったか、と王さまは、目を細めた。

『まあ、良いだろう。
 ……この高貴な香りは、そなたにこそ、ふさわしい』

『そ……それは、どうも……』

 星羅が絶対、迎えに来てくれる。

 美有希と賢介が、応援してくれるって思うから。

 少しでも動けるようにって、頑張って食事を取ろうとしているんだけど、やっぱりダメで。

 食べ物を口に入れても砂の味しかしなかったし、無理に飲み込むと、吐いた。

 そんな、ぼろぼろの状態を哀れに思ったのか。

 王さまも、無茶なことをしなかったけれど。

 隙あらば、口付けぐらいは良かろう、と迫ってくる。
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