僕はショパンに恋をした
次の日も、霧野氏はその店に行った。

前日、自分のピアノをへたくそだと言い捨てて、帰って行った女に会う為に。

朝から待った。

昼過ぎに彼女は、やって来た。

そして、霧野を見つけると、ひょいと方眉をあげて言った。

「あら、リベンジ?」

挑発的な言葉に、霧野は、一番自信のある曲を弾く事にした。

とにかく必死に弾いた。

何人か入っていた客は、霧野の気迫に圧倒されながらも、弾き終えた後には拍手をくれた。

どうだ、というように彼女を見ると、またまじめな顔で言った。

「やっぱりへたくそだわ。」

霧野は頭から湯気がでるかと思うほど、腹立たしかった。

「どこが!何がへただというんだ!」

自分より遥かに年下の、しかも女性にどなった。

「…あなた、本当にわかってないのね…?。」

今度は形の良い眉を寄せて、切ない顔をした。

「どいて。どう違うか、自分で確かめればいいわ。」

そい言うと、彼女はピアノの椅子に座り、深く深呼吸した。
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