ハチミツ×シュガー



『彼方、今どこにいる?』



 低い、艶のある声。


 俺なんかよりも頭が良くて、見た目も頭も大人で色気のあるコイツには、いつも敗北感を味わっている。



「今は……あと5分で事務所前」



 秋風が吹く、10月。


 この電話の相手は、数ヶ月前に5年越しの片思いを見事実らせて、頭の中は時季外れの桜が咲いている。

 ――まぁ、おめでたい話なんだが。


『そうか。 じゃあ急いで戻ってくれ』


 ――は?


 それだけ言うと、一方的に電話を切られた。

 ……今日もなんかあったのか…?



 プライベートが充実すると、仕事もはかどるらしい皇は、迷惑な位に仕事を見つけてくる。


「……勘弁してよ…」


 俺は溜め息を吐いて、携帯を仕舞うとそのまま足を早めた。




 その瞬間また、


 アイツへの電話を忘れた――…



< 654 / 771 >

この作品をシェア

pagetop