奥さんに、片想い

イニング3(前半) 九回裏◇念ずればヒットする!



 雨……。ついに本格的な梅雨の時期に入ってしまった。

 蒸し暑い上に湿気も多く、通勤では雨に濡れ、朝から気合いを入れた身だしなみをあっという間に乱される。

 スーツのジャケットも裾もなんとなく湿ったままで、デスクに向かう。
 ただでさえ湿っぽくなっている気分が余計に落ち込む。



 コンサル室の窓を見れば、しとしととした雨が降り続いている。

 今日も外でランチは出来そうにない。非常階段も同じく――。となると、何処かのカフェか街角の老舗喫茶に入るしかなさそうだった。

 息が詰まる。風を感じる場所で十分でもいいからぼうっとしたい。
 溜め息をつきながら、千夏は顔をあげればそこに見える男性を見つめた。
 彼は今日もパソコンモニターを目の前に書類をめくり黙々と仕事をしている。
 窓の前にある課長席。一番陽射しがはいる場所だからどの席よりも明るいのだが、その背後にある窓には無数の雨の滴。
 ここ最近、彼がヘッドホンをして誰かの席で対応するという姿をあまりみなくなってしまった。
 本当の意味で彼はデスクワークを主とする管理職になってしまったのだなと思う。もう現場監督ではないのだ。

 この人のために頑張っていく――。
 そう決めていた。彼が『僕と本部に行こう』と誘ってくれる前からだった。
 こういう人にこそついていこう。初めて千夏が職場で心底信じられると思った人だった。






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