奥さんに、片想い
あの落合さんにここまで応援してもらえるようになったことは、僕にとってもとても嬉しいことだった。彼女の必死な瞳に僕はどこか幸せを感じていた。
そこで……。僕には何かが見えてしまった。
僕が課長になることは、誰もが祝福してくれるだろう。そんな手応えを今感じている。でも僕が課長を引き受けると……美佳子が、沖田が……。
僕は、何故か笑った。
「係長?」
訝しそうな落合さんに、僕は笑って言う。
「彼に殴られるほど恨みをかった僕もまた……貧乏くじをひいていたんだよ。落合さん……」
「ど、どうしてですか。係長はいままでなにも間違っていませんよ。あんな酷かった私のことだって……!」
僕は答えなかった。ここまで僕を助けようと本部の様子を探ってくれ、必死になって訴えてくれる落合さんに言いたくなかったから。
そうだ。あの時、営業部長に自己判断で取り次いだ時。僕は貧乏くじを引いていたんだ。
彼が大好きで堪らなくて彼を信じたからこそ、自分のために美佳子を貶めた落合さんのように。
瀬戸際の三十女だった美佳子が、つい彼に惹かれてしまったように。
そして。僕も……。
そんな貧乏くじを引いた男が本部に行くと、きっと僕も疫病神になることだろう。
―◆・◆・◆・◆・◆―
まだ雪は舞うが、春を告げる祭が始まった頃。僕は答を出した。
「椿祭、今日で終わってしまうな。今夜いこうか」
帰宅するなり告げた僕に、美佳子も娘の梨佳も目を丸くしていた。
「どうしたのパパいきなり! だって今からもうご飯だよ」
その通りで、食卓は既に整っていた。
「せっかく作ってくれたのに、ごめん美佳子。それでも今夜はママと梨佳とでかけたいんだ」
美佳子がまた、僕をじっと訝しそうに見ている。やがて、彼女から笑ってくれる。
「いいわよ。これはまた明日食べられるし」
「え、ママ。今から行くの?」
「うん。だってパパがどうしても行きたいって言っているのよ」
「梨佳。お参りが終わったら、お寺の近くにあるパスタ屋に行こう」
「ほんとう!? いくいく!」
娘がコートを取りに部屋へとすっ飛んでいった。
「美佳子もほら。支度して」
「うん」
いきなりの家族での外出。心なしか美佳子の笑顔が戻ったような気がした。