亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


火の勢いは、止どまることを知らない。


むしろ大きくなっている。既に三メートルから四メートルの高さまで成長していた。

「―――……ブレイズツリーの樹液か…」

忌々しい壁を見上げ、ベルトークは呟く。

ブレイズツリーは、山地にある普通の木だ。春には花を付け、冬は球根を残して枯れる。
何処にでもある植物。
しかし、この植物は生命力に於いては、他の植物の群を抜く。




山火事が起きると、全て灰になる。子孫を残せずに大抵の植物はそこで終わる。

…ブレイズツリーは違う。
葉や枝に火が燃え移ると、中の樹液が突然変異をし、炎をより大きくする働きをもつ。

巨大な炎になると、少しずつ、舞い散る火の粉に己が種子を混ぜていく。

種子を含んだ火の粉は風に飛ばされ、次なる土地を目指すのだ。

より遠くに、確実に。そのためには炎を大きく………激しく…。



これが、ブレイズツリー(焔の樹木)と言われる所以だ。

この木の樹液に一度火をつければ、半日は消えない。

油は油でも、厄介な油だ。



「………小賢しい真似を…」
< 129 / 1,150 >

この作品をシェア

pagetop