亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
―――焦げ臭い。
鼻をつく異臭で、マリアは目を覚ました。
時刻はまだ夜更け。
真っ暗な闇が広がっている筈の窓の向こう。
移した視界には、真っ赤な火があった。
………火事?
マリアはベッドから飛び起きた。
外が異様に騒々しい。
………悲鳴だ。
何が起きているのかなど分からない。
だが………張り詰めた空気がマリアをつき動かした。
「……ナセル?」
隣りに寝ていたナセルの姿が無い。
部屋中を見回したが、何処にもいない。
隣りの部屋に行っても、誰もいなかった。父や母、ミラも忽然といなくなっていた。
隙間という隙間から、真っ黒な煙が入って来た。
喉が焼ける様な熱い風。ゴホゴホと肺の痛みを堪えて咳き込みながらも、外へ出ようとした。
扉に手を掛け…押し開けると………。
火の粉が飛び交う闇夜の中、目の前を真っ黒な塊が横切って行った。
菱形の真っ赤なものがギョロギョロと蠢いている。
………目玉?………なんて気持ちの悪い…。
何度か遠くから見たことはある。
あれは……影だ。
よく見ると至る所に黒い塊が身体を引き摺っていた。
………地面に、たくさんの死体が敷かれていた。